千年姫の幻想界
「失礼します、華様。
お母様がお呼びで御座います」
「あら、式」
式とは、この家に仕えている召し使いだ。
母から貰った特殊な折紙に、華が術を掛けて作ったヒトガタ。
くりっとしたエメラルドの様な瞳に小さな鼻と口。
黒い髪は肩で切り揃え、先程鳴った鈴付きの髪飾りをしている。
可愛らしい見た目だが、さすが母の紙だけあって、普通の術使いなど瞬殺出来る程の強さだ。
「どんな用件なの?」
「儀式の事だと言っておられました」
「え……」
華は頭の中で、立てていた計画ががらがらと崩れていくのを感じた。
なんとか顔には出さなかったが、心の中でため息をつく。
儀式とは、神伽凛が新たな姫を選ぶ事だ。
予め姫に相応しい候補を絞っておき、その中の一人が選ばれる。
それで、何故華が落ちているかというと……
「お母様!何故ですか?私、お祭りをずっと楽しみにしていたのに……」
「落ち着いて、華。
御免なさいね……。
けれど、雅様から貴方を候補にと……断るなど出来ないわ。
四日間だけでは駄目かしら」
そう、雅様……なんと、現在の姫から華を候補にと指名された。
それはとてもとても栄誉な事なのだが……。
「そんなぁ……。三日も潰れてしまうわ」
儀式は三日間。
華の自由時間が大幅に減らされる。
大抵の女性なら泣いて喜ぶはずの話が、祭りを回れると舞い上がっていた華には、大層落ち込む話となった。