長すぎた初恋の延長戦
辺りが徐々に夕焼け色に染まってきた頃。
ついにその時はやって来た。

「燈…大丈夫?」
「うん!元々上手くいくなんて思ってないし。」

当然まだまだ気分は落ち込んだままだけど。
私はどうにか笑顔を取り繕って、心配そうに私を伺い見てくる友達に首を左右に振って見せた。

「じゃあ…私もう少し前の方だから。」
「…うん。」

自分の位置に戻るため、ヒラヒラ軽く手を振って友達と別れた。
平静を装って歩いてるけど、私はまるで全身が心臓になったみたいに、ドクンドクンと激しく脈を打ってるのを感じていた。

(…大丈夫。サラッと言っちゃえば。)

そう自分に言い聞かせるとほぼ同時、とうとう音楽が流れ出した。
そのリズム感の良い音に合わせて、私は最初の人と手を繋いでステップを踏み始める。

(文也まで、あと…五人。)

少し遠くの方に、文也の目立つ赤茶色の髪が見える。

私…ちゃんと言えるのかな。
なんて、そんな不安が湧き上がり始めたのは、文也と踊るまであと三人程にまで迫った頃。

…言えるのかな。じゃなくて、言うんだ。

(…あと二人。)

さっきまでは結構あった筈の文也との距離が、今では凄い近くに感じる。

大丈夫かな、私変な髪型になってないかな。…なんて思ってももう今更で。気にした所で直す暇なんて無い。

(あと、一人…!)

まるで早送りみたいに音楽が流れて、あっという間に文也が目の前に来た。
手を差し出されて、私は必死に緊張を押さえつけながらその手を握る。

初めて握る文也の手。
小さいと思っていたそれは思いの外大きくて少し骨張っていた。
きっと文也の手を握るのだって、これが最初で最後。

「…文也。」

ステップを踏みながら、取り敢えずポツリと名前を呼んでみた。

「んー?」

踊る事に集中しているのか、文也はどこか生返事。
だけどそっちの方が、私は逆に言いやすかったりする。

「…すき。」

告白するって決めた時から、その言葉はこれだけにしようと思っていた。
変に綺麗な言葉を並べるよりも、自分の気持ちをシンプルにまとめたかったから。

「好きだよ…文也。」

だけど言ったら言ったで無性に何か他の事を言いたくなって、何でか溢れそうになる涙をグッと抑えながら再び声を絞り出した。

「好き…ふみ、」
「ッ、もういい…!」

何度言っても足りなくて。
もう一度と口を開いた所で、とうとう文也からの制止の声が入った。

「あのさ、」

続いて聞こえてきたのは、どこか震えた様な文也の声。
振られるんだ、私。
分かっていた事だけど、いざその言葉を前にするとまるでそれを拒絶するみたいに、顔が勝手に下を向いた。

「…ごめん、今のなしにて。」

…やっぱりか。
あーあ、文也の前では絶対に泣かないって決めてたのに、私の告白を全く無かった事にしたがる文也に、耐え切れずに気付いた時には視界がぐにゃりと歪んでいた。
変に泣くのを堪えている所為で喉が痛い。鼻がツンとする。

覚悟していた筈なのにショックを受けるって事は、私は少なからず期待していたのかもしれない。

「…とで…れ、から…せて。」

だけど。
完全に終わったと思って涙ぐんでいた私の耳に届いたのは、頬から耳にかけてを朱色に染めた文也の声だった。

「なに?聞こえない…。」

涙声にならないように気を付けながら、そう聞き返す。

「…っ、後で…俺から言わせろっ…!」

嬉しかった。幸せだった。信じられなかった。
耳まで真っ赤に染めた文也にそう言われた私は、一気に色んな感情が湧き上がってきてまともに言葉を紡げなかったくらい、動揺していた。

「文也…それって、」
「待ってろ、後でお前んとこ行くから。」



ねえ文也。
この時は、私の事ちゃんと好きだったよね。
一体いつから私と文也はすれ違っていたんだろう。





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