イジワル婚約者と花嫁契約
「だから心配するな」そう言いたそうに微笑む健太郎さんに、チクリと胸が痛む。

健太郎さんは以前となんら変わりない。時々意地悪を言うけれど優しいし、すごく気遣ってくれるのを感じられる。
だから胸が痛むんだ。
それなのに私は心のどこかでまだ少しだけ健太郎さんのことを、信じることが出来ずにいるのだから――……。



「退院が決まって良かったですね」

「ありがとうございます」

夕方の検診には、いつものように担当の梅沢さんが来てくれた。

あれからさり気なく大部屋の移動を悲願してみたものの、お兄ちゃんによってその願いは叶わなかった。
どこまでも過保護なお兄ちゃん曰く、同じ病室の患者に意地悪な人がいたらどうするんだ!と。
そんなことあるわけないのに頑なに反対されてしまい、今もこうして個室にで過ごしていた。

「……はい、血圧問題ありませんね」

測定をするとすぐに記録していく。
今はカルテもコンピューター管理らしく、パソコンに打ち込んでいる。
最初見た時は驚いたけれど、今はそれが主流らしい。
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