イジワル婚約者と花嫁契約
会えないのは別にいいけど、そのおかげでお父さんに断るってことを言い出せないでいる。
それどころか、両親の間では佐々木さんの評価は上がる一方だった。
この前訪ねてきたこともそうだけど、彼の仕事ぶりを聞いたらしくお父さんは褒めちぎっている。
本当……なんかもうよっぽどのことがない限り、断れないような雰囲気なのだ。

「ちょっと電話するところがあるから、先に戻っていて」

「分かりました」

オフィスに戻る途中千和さんと別れ、ひとりオフィスへと向かう。
その途中メールを確認すると、珍しく佐々木さんから返信が届いていた。

【無理。呼ぶから。灯里も俺のこと名前で呼んでよ】

思わず足が止まる。

呼ばないで下さいって送ったのに、早速呼んでいるし。
苛々を募らせながらも、すぐに返信する。
【私も無理です。絶対に呼びません】って。

「名前で呼ぶなんて絶対ありえない」

スマホを乱暴に鞄にしまい、足早にオフィスへと戻る。

お互い名前呼びなんて、なんか一気に距離が縮まった感があるし。
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