寂しがりヒーロー
教室の近くになると、クラスメイトの男子が頭を下げる。


「教室の中ではそれ、ダメだからね?」


僕がそう言うと、「承知してます。教室の中じゃ出来ないから、今してるんですよ」と深々と頭を下げられた。

教室の中にはカモちゃんがいるからね。
カモちゃんに僕がそんな立場にいることがバレたら、色々困るんだよ。


「教室に入った瞬間、僕は君達と同じ立場にさせてよ?」

「了解です」


その返事を聞いて、僕は教室に足を踏み入れた。


「おはよー、みんな」


教室の中にいた男子は、少し目を見開いたけど、「おはよ、伊月!」と笑顔を向けてくれた。


「伊月ー、今日昼一緒に食おうぜ?」


それはいつも光から言われる言葉。

その意味は、ただ『お昼御飯を一緒に食べようって意味じゃなくて、『他校のヤツらが攻めてくる情報が入ったから気を付けろ』って意味。

昼休憩にみんなで集まって、作戦を練る。
まぁ、僕はいるだけって感じだけど。


「うん、分かったー」

「伊月ー、早く席着かなきゃ先生来るよ?」


カモちゃんにそう言われ、「えっ!?ほんと!?」と焦りながら席に着く。

そんな景色を、みんな微笑ましそうに見つめる。
さっきまで真面目な顔をしてた男子も、優しい目線を僕らに注ぐ。

カモちゃんといると、なんか、やっぱりトップには向いてないなーって思う。
僕はいつもカモちゃんに助けてもらってるし、ことあるごとにお世話をしてもらってる。

そんな僕がトップ?
笑っちゃうくらい変なことだよね。

この高校、大丈夫なんだろうか。

そうは思いつつ、僕は男子の前ではゆる~いこの高校のトップ、女子の前では頼りない子どもっぽい男子、カモちゃんの前ではダメダメな弟として生活している。

もっと大きく分ければ、この高校での最強と言われるトップと、弟気質の二つ。

その二つを組み込んで、僕が成り立っているんだ。

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