初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
「じゃあオレに言うなよ」
「いや、そうなんだけどさぁ」
百井くんは亜湖に自分の秘密を知られてもいいのかと、なんとなく釈然としない気持ちを覚えつつ、わたしは狭い美術室内を移動し、いつもの定位置にストンと落ち着く。
壁際にうず高く積み上げられた机や椅子は、けして切り立った崖のようにどこにも座れないというわけではなく、荷物を置いたり腰かけたりできる部分は掃除のときに確保していた。
百井くんが絵筆をとる正面の長机に座るのが、今のところのわたしの定位置。
顔から下だけとはいえモデルなのだから、まあ当然といえば当然の位置だ。
「オレが止めても脚立にのぼったくせに、木崎に言われたら簡単にやめるんだ」
「うっ……。その話はもうやめて」
ニヤリと口角を上げてわたしを見据える百井くんは、ときたま魔王にも見える。
この美術室でなら百井くんは素直な面を見せてくれるけれど、こういう意地悪な一面も隠し持っていたなんて、正直言って反則だ。
しかも、似合っているからタチが悪い。
こういう意地悪な顔を見るにつけ、素直というベクトルが確実に違うほうに向いていると思わされるのは、もしかしてわたしだけだろうか。