太陽に恋をして
◎本当はね
久々のお休み、私はいつも通り部屋の掃除をし終わると、ベランダの柵にもたれて空を見上げた。


部屋のすみには唯月の誕生日プレゼントにと買ったGute Wareの紙袋がある。
黒と白のギンガムチェックのシャツ。
今日は唯月の誕生日だ。


柳原さんとイルミネーションを見に行った日から、唯月に会ってない。
こんなことは初めてでどうしていいかわからなかった。


いつもみたいに、ご飯食べに行かない?と誘って、また拒絶されるのが怖かった。

「誕生日プレゼントくらい…渡せるよね」


唯月の美容院は誕生日休日といって、自分の誕生日は休みになる。

だから、今日はきっと家にいるはずだ。


昼過ぎ、紙袋を持って唯月のうちのインターホンを押した。

今まで数え切れないほど押してきたはずのインターホンを、今日はなかなか押せなかった。


「あ、お母さん。今ゆづいる?」

紙袋をギュッと胸に抱き締めて、出てきたお母さんに聞く。
なんだか私、バレンタインデーにチョコを渡しに来た小学生みたい。



「楓佳ちゃん、聞いてないの?」


お母さんは、嘘…と呟き、口元を押さえた。


「え?何を?」


「唯月、大阪に行くの。今日の新幹線で」


「どうして?」


「大阪に新しく出来たお店で働くって…」


「え…?ごめん。よくわかんない」


気がつくと、私は玄関にぺたりと座り込んでいた。
お母さんが慌てて背中をさすってくれる。


「私、知ってると思って…。唯月ったら楓佳ちゃんになにも言ってなかったなんて…あの子なに考えてるのかしら」


「…お母さん…」


「なぁに?」


「新幹線の時間、わかる?」




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