●飴森くんの王子。
 
 
 
 
「……どうする。ライバル出現だ、白石龍」
 
「おわっ!?」
 
 
 
 
突如小さいけれど芯の通った声が上がり、思わず体をビクッと震わせて、
俺は声のした方――隣を見ると今さらながらそこに誰かいることに気づいた。
 
 
 
 
「えっと……弧影、驚かすな」
 
「どうも。白石龍」
 
 
 
 
俺の言葉を完全スルーで通し、俺のフルネームを刻む弧影。
こいつの第一印象はフード。現在進行形でフード。常にフード。
 
 
とにかく弧影と言われたらまず思い浮かべるのはパーカーフードの姿。
 
 
 
 
「体育なんだし、フード外せば?」
 
 
 
 
無駄だと分かってはいるけど、取り敢えず提案してみる。
案の定、弧影は首を横に振ってフード下から小さな笑みを口元に描いた。
 
 
 
 
「まさか。外すわけないじゃん。外したのは学校初日の入学式だけ。もううんざりだよ」
 
「……そか」
 
 
 
 
俺の最も強い印象が“フード”の弧影だけど、
なにも弧影は生まれた時からフードだったわけではない。
 
 
俺は1年のとき弧影とは同じクラスじゃなかったけど、
噂でなら聞いたことがある。どうやら弧影は入学式の時――……、
 
 
 
 
「飴森勇って君の幼馴染みだっけ」
 
 
 
 
静かだがよく通る声が俺の鼓膜を震わせ、俺を空想から引き剥がした。
隣をチラリと見やると弧影は真っ直ぐに前を向いていた。
 
 
 
 
< 28 / 31 >

この作品をシェア

pagetop