意地悪なきみの隣。



「いつになったら言うつもりなんだよ」



「……まだ言わない。つーかあっちが気づくまで言わない」



紘樹、俺らこの話何回目なんだろうか。


目線の先にいる西野は市倉と楽しそうに話す。


はあ…。


心の中でつくため息も、高校生になってから何回目だろう。



「なんで気づかないかな」



頬杖をついてお弁当をつつく。


ほら、昔はお弁当一緒に食べてたのに。


休憩時間も、幼稚園の後も。



「なんで俺が『やまとくん』って気づかねえんだろ…」



こんな声、聞こえてないんだろうな。


汗がポタリと流れる季節。

入学して日も経つのに西野は俺が『やまとくん』だってことに1ミリも気づかない。



はっきり言うと、西野はバカ。


どうしようもないくらいに。

だってこんなにもヒントを与えても何一つ疑わない。


俺だよ。


俺なのに。




俺が『尾原大和』だって。



小学2年生で親が離婚して母親に引き取られたから苗字が尾原から中島に変わっただけで、


他は何も変わってねえよ?


あとは少し大人になったくらい。


でもそれは西野だって同じだし。
そりゃ幼稚園の頃から今じゃ身長だって髪型だって違う。


でも、大きな目とか笑った顔とか変わってないとこもある。


クラス発表のとき、俺の名前と同じクラスに『西野郁』って名前があったときは正直ビックリだった。


だって幼稚園以来なんだよ?


幼稚園児ながら好きだったあの『郁ちゃん』にやっと会える。


嬉しくてたまらなかった。


あんだけ一緒にいたし、苗字が変わってても思い出してくれるだろう。


そう思ってた。




< 22 / 214 >

この作品をシェア

pagetop