お菓子な男の子
新学期の朝は、今にも雨が降りそうな、どんよりとした空模様だった。


「行ってきます」


ドアを開けるとやっぱりいた。


「別に……待ってなくていいのに……」


玄関の横で腕を組んで寄りかかってる、しかめ面に向かって言った。


「うるせぇ。いいから早くしろよ」
「……ごめん」


本当は安心している自分がいる。今までみたいに斗真がいて、軽口に軽口で返してくれて……。何も変わってない。そう思えるから。


「なぁ杏奈」
「…………」
「杏奈!」


はっと気づくと、斗真の顔が目の前にあった。怒っているのか、悲しんでいるのか、戸惑っているのか……複雑な顔だった。


「またかよ」
「なにが……」
「前にも言ったろ。ギャーギャー騒いでくれたほうがマシだって」


あ……あの時と同じ……
斗哉くんの……


「俺、兄ちゃんみたいに器用じゃねぇから、こういうときどうすりゃいいか分かんねぇんだよ。だからさ、勝手にモヤモヤしてないでぶつけてくれよ。昔からそうだっただろ?」


斗真の言葉は不器用そのものだったけど、まっすぐで……。
今の私には痛いくらい響く。


「……行くぞ」


斗真は歩き出した。私に合わせてゆっくりと。
いつもは遅刻するっていって、私のスピードなんて気にもしないのに。これじゃあ電車に間に合わないよ?斗真、無遅刻・無欠席だけが取り柄でしょう?


ごめんね、何も言わなくて……


私はただ、斗真の背中を見つめていた。
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