ジキルとハイドな彼
「ねえ、本当にいいの?」

「いいんじゃないすか?葛城さんが言い出した事ですし」

さ、どうぞどうぞ、と言って小鳥遊は自分の部屋のように中へ入るよう促す。

強盗犯が逮捕されるまでは、自宅アパートで一人暮らしをするのは危険だという判断の元、暫くコウのゴージャスなマンションに身を寄せる事となった。

最初のうちは、まさかそこまでしていただくなんてさすがに図々しいと思い、遠慮していた。

しかし「証人保護プログラムの一環ですから」と小鳥遊にもっともらしく諭されたので思わず納得してしまった。

「どーせ葛城さんは毎晩帰りは遅いし、休日出勤もザラですから、いないも同然ですよ」

「そ、そうなんだぁ」思わず口元がニヤけてしまう。

毎晩あの素敵なお風呂に気兼ねなく入れるなんて夢みたいだ。

正直、一時的に実家に帰ろうかとも考えたが、事件の話しを聞かせたら埼玉の両親に連れ戻されるのが目に見えているので、ここは一つ甘えさせていただくのもよいかもしれない。

「じゃ、話しは決まったって事で俺は仕事が残ってるんでそろそろ失礼しますね」

小鳥遊は私の気が変わる前にこの部屋から出て行こうとそそくさと帰り仕度を整える。

「今日は色々ありがとうね」

「こちらこそご馳走さまっす」

これ、と言って小鳥遊は名刺を差し出してきた。

「ナンパじゃないっす。俺グラマーな女性が好きなんで」

「わかってるわよ」こっちだってお前みたいな軽薄な輩はお断りだ、と言いたいところ大人の懐の広さでグッと我慢する。
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