ジキルとハイドな彼
「店にいない時はこちらに連絡してください」

名刺をみると、名前と携帯電話の連絡先しか書かれていない

「随分シンプルね」

「私自身、組織というものに属していないものですから」

「それって… ニート?」私が遠慮がちに聴く。

「ニート?ニートとは教育、労働、職業訓練のいずれにも参加していない状態を差して言っているのですか?」

ええ、まあ、と曖昧に肯定する。

「一応、骨董品店を手伝ったり、あと翻訳の仕事をフリーでしています。不動産と株もちょこっと持っているので、資産もそこそこと言ったところでしょう」

確かにコウは美しいのは勿論のこと、俗世から妙にかけ離れている印象がある。

満員電車に揺られて通勤したり、会社の飲み会で上司に無理矢理酒を飲まされたり、出来の悪い部下を叱りつける姿など想像出来ない。

「名刺ありがとう。見ず知らずの私にもそんな親切にしてくれて貴方って本当に優しい人なのね」

葛城は人差し指を立てて横に振る。

「他人ではありませんよ。私達は友達になったのでしょう」

ジッと目を見つめて真剣に言うので私は思わず笑ってしまった。

「でも、友達になる前だって貴方は自転車を起こすのを手伝ってくれたじゃない。やっぱり優しい人よ」

コウは宙に視線を泳がせた後、何かを思い出したようにクスリと笑う。

「泣ながら自転車を起こしている姿を見たらなんだか放っておけなくて」

「な、何言っているの!泣いてなんかなかったわよ!」言葉とは裏腹に耳まで赤く染まる
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