ジキルとハイドな彼
しかしあのポンコツカップルは私に披露宴の招待状を送りつけるとはいい度胸だわ。

本社にいる同期を全て呼ぶのだから、さすがに一人だけ避けるように声をかけない訳にもいかなかったのだろう。

ここで欠席すれば、まだ孝ごときを引きずっていると誤解が生じかねない。

勿論行きたくないし、祝福する気も更々なかったが、渋々出席することになった。

本当馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。

自分のちっぽけなプライドが貴重な週末とご祝儀で包んだなけなしの二万円―――本来ならば三万円が私の相場だが、別れればいいという呪い…いや、願いを込めてあえて割り切れる金額にした―――を無駄にしたかと思うと地団太を踏んで道端に転げまわってやりたいほど悔しい。

新郎新婦は、そう、とても幸せそうだった。

孝は私を傷つけたことなんてすっかり忘れて愛おしそうに新婦を見つめていた。

その瞬間、私の四年間は無になった。

ケーキカットの瞬間、司会の人が「お写真をどうぞ」なんて陽気にいってたけど、私の身体は根が生えたかのように椅子から立ち上がることが出来なかった。


表参道から地下鉄に乗り、渋谷で降りる。

そこから2本私鉄を乗り継ぎ、自宅のマンションがある駅で降りる。

二次会は欠席したとはいえ、すっかり日は落ち、神無月の冷たい風が頬をなでる。

ふとポケットに入っていたスマートフォンを取りだし画面をタッチする。

メールも、着信もなしか。

気持ちが荒れているのにはもう一つ理由がある。

寧ろこっちの理由のウエイトは重いだろう。

こんな時にこそ、傍にいて欲しい人に連絡がつかない。
何度連絡をしても「お客様のお掛けになった電話番号は… 」という無機質な機械音声が繰り返し流れるだけだった。

文明利器とはいえ、肝心な時に肝心な人に繋がらないなんて、無用の長物だ。

思わず携帯電話にまで当たりたくなる。
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