王様とうさぎさん
 



「遅かったじゃん」

 自分の部署に戻ると、同期の小向潮(こむかい うしお)が椅子から反るようにして、こちらを見て言った。

 茶髪でボブのちょっとした美人だ。

 莉王は後ろを振り返りながら、

「ちょ、ちょっと途中で止められて」
と言う。

 何かホラー映画のように、あのうさぎが追ってきそうな気がしたからだ。

 ダンボールの載った台車を押して、壁際のスチール棚の方に行こうとすると、手伝うよ、と潮が立ち上がってくる。

 二人で箱を抱えた。

「ごめん。
 重かったよね。

 私が戻ってくるまで、待ってればよかったのに」
と言う潮に、

「いやいや。
 この間、潮が行ってくれたから。

 それに——」
と言いかけやめた。

 それに? と彼女は訊き返してくる。
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