王様とうさぎさん
 言うつもりはなかったのにな、と真人は思う。

 でも、呑気な莉王の顔を見ていたから、こいつにはちゃんと伝えておかねばと思ったのだ。

 あんな男に騙される前に。

 允が意図的に莉王を騙してやろうと思って、どうこうというのはないと思うが。

 あいつはいつもなんでも無自覚なところが怖いんだ、と思っていた。

 卯崎と別れるまで、手を離さない、と言ったら、莉王は、

「別れるもなにも付き合ってもないからっ」
と叫んでいた。

 自分は酔った勢いで同じ台詞を繰り返し、そのまま寝てしまった。

 強く握っていたのか、莉王の手が赤くなっている。

 そうっと離そうとしたが、今度は莉王ががっちり握っていて、離さない。

 復讐かっ、と思った。

 莉王は爆睡していて、起きそうにもない。

「こらっ、莉王。
 離せっ」
と小声で叫ぶ。

 トイレ行きてえし、喉乾いたんだよっ。

 莉王を起こさないよう、そうっと外そうとしたが、うまくいかない。

 それにしても、こんなに揺すっても起きないなんて。
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