キミがこの手を取ってくれるなら

4、揺れる


社会人になり、奏が志帆さんと恋人同士になっても、奈子はまるで分かっていたことだ、と言った感じで、落ち着いているように見えた。


たまに会うと、そんな奈子が健気で、可愛くて、触れたくなった。


酔ってる勢いで何度か頭を撫でた。
たまに触れる彼女の額は温かくて、俺の心まで温かくなるような気がした。


まだ、奈子の側にいていいか?いつもその言葉を飲み込みながら。


***

「俺、婚約した。」

中学の同級生何人かで集まった飲み会の席で、奏は俺に報告した。

「おめでとう。」と口にはしたけど、複雑な感情に心は包まれた。

3人の関係が……終わっていく。

「奈緒には、来週話すよ。うちの店の取材に来てくれるんだ。」

……奈子はどんなことを思うのだろう。


俺のほうから、奈子に何かを言う気にはなれなかった。


気になって落ち着かない日々を過ごした。





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