今、ここであなたに誓わせて

でも、もしかしたらこんな杞憂は自分の取り越し苦労で、もしかしたら今の高校生は皆大体こんな感じなのかもしれない。

そこで会話を遮るように着信音が鳴った。画面に、たかし先輩と出る。それを見るなり立ち上がり自室へ行こうとする凜を呼び止める。

「ここで電話出ていいよ」
「でも」
「お兄ちゃんの前だと話しにくい相手なのか」
「だって彼氏?だもん」

あっけらかんと恥じらう様子もなくそう言われ、びっくりし過ぎて頭の中が真っ白になる。その間に自室へとパタパタと駆けていく凜、俺の方は目を点にしたまま呼び止めることも咎めることもできずただ茫然としていた。

彼氏?ってなんだ。なんで語尾を上げる必要がある。その?マークは一体何を意味しているんだ。彼氏じゃないのか、彼氏みたいな存在なのか。まさか高校生のくせに、そんなふしだらな付き合いをしているというのか。

回線がパンクしそうな思考回路を処理しながら、冷静になってきた頭でそのワードについて必死に思いめぐらした。今すぐにでも凜の部屋へ行き、その手から携帯を無理矢理奪い取って「すいません、どちらさまでしょうか」と問いただしたい位だ。

薄い壁の向こうから凜の声は聞こえるが、会話の内容までは分からず、ただ凜が部屋から出てくるのを待った。しばらくして出てきた凜に、努めて平静を保ちながら尋ねる。

「電話の相手誰だ」
「彼氏?」
「だから、彼氏?ってなんだそのハテナマーク」
「付き合う前の一歩前の段階って感じ」
「どこで出会った?どんな奴?」
「バイト先の2つ上の先輩」
「2つ上?今度家に連れてこい」
「なんで?」
「なんでって」
「誰かと付き合うのにお兄ちゃんの許可がいるの?」
「凜にはまだ誰かと付き合ったりするのは早いと思う」
「今まであれがだめ、これがだめってあまり言わなかったのに。なんか最近厳しくない?」

高校に上がって凜の世界が広がって行動の自由度が増し、大人の社会に一歩踏み入れるようになったことがこんなに怖いものだとは思わなかった。
今まで自分の手の届く範囲で生活し、凜のことは全部知った気でいた。それなのに、それが自分の手の届かない知らないところで、何をしているのか分からないという恐怖。


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