~SPの彼に守られて~
 午後の打ち合わせは滞りなく進んで、もうすぐ定時か……、明日に持ち越す仕事もないから、今日はこのまま鷹野さんたちと帰れそうかもと、こっそりスマホで鷹野さんに定時で上がれそうなことをメッセージで送った。

 定時のチャイムが鳴り、帰りの支度を始める。

「吉野さんは帰りはどこかに寄るの?」
「今日は何処にも寄らず、このまま帰宅します。お先に失礼します」
「気をつけてね」

 龍崎さんに帰りのことを聞かれ、今は狙われている立場としては帰りにショッピングや食べに行きたいけれどグッと我慢する。

 経理課を後にして社員通用口に向かうと、既に鷹野さんが立っていた。

「お待たせしました」
「よし、帰るぞ」

 鷹野さんが一歩前を歩く形で帰りの警護が始まったんだけど、昨日の覆面マスクの男たちのことが頭をよぎって、周りをきょろきょろしちゃう。

「そんなにきょろきょろすんな」
「すいません、昨日のことが気になって」
「まぁ、一日で色んな事があったからな。最後まで護るから、安心しろ」

 "最後まで"……、前を歩く鷹野さんの大きな背中を見上げ、今は私を護るためにその大きな背中があって、それ(事件が解決)が来たとき、次はこの大きな背中は誰を護るのかな?

 少しだけ一歩前を歩く距離が何だか寂しくなっちゃって、右手をそっと伸ばして、鷹野さんのスーツのジャケットの左下側の裾をきゅっと掴んだ。

「少しだけ、こうしていてもいいですか?」
「ああ」

 急に掴んで怒られるかなって思ったけど、鷹野さんの優しい声が聞こえて嬉しい自分がいた。
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