~SPの彼に守られて~
「鷹野さ―…」
「待った」

 鷹野さんは開きかけた私の唇に、細長い人差し指を置いた。

 さっきはあんなに優しい表情で微笑んでいたのに……、どうして今はそんな辛そうな表情で見るの?

 すると鷹野さんは私を抱きしめ、顔を私の耳元に寄せる。

「お前をアイツから護りたいから、今は言うな。頼む」
「………はい」

 アイツってきっとレオとかドラゴンのことだと思うけれど、今はそんなことよりも鷹野さんの声が切なくて胸が痛いよ……、痛くて、痛くて、視界が潤んでぼやけて、小声で返事するのが精いっぱい。

 綺麗な夜景よりも鷹野さんに抱きしめられているこの温もりが胸だけなじゃなくて全身に焼き付けられて、ますます鷹野さんのことを想う気持ちが強くなっている自分がいる。

 すると抱きしめられた腕の力が緩むと密着していた身体が離れ、鷹野さんは私の前髪を掻きあげておでこにキスをした。

 その小さなリップ音が切なくて、お互いの気持ちを代弁しているみたい。

『まもなく頂上です』

 スピーカーから聞こえる音声でカゴが頂上に近づいていたんだと分かって、そこから遠くにそびえ立つ赤い鉄塔のライトアップが見えるんだけど、これがSPと依頼主の関係じゃなくて、両想いのカップルだったらもっと綺麗に見えるんだろうなぁ。

 そして巨大観覧車のカゴが一周し終え、カゴから降りて普通乗用車を停めている駐車スペースに向けて歩くけれど、カゴに乗る前は私の手を掴んでいたのに、今はいつものように鷹野さんが一歩前を歩く警護の体勢だから手は掴まれていない。

 それも切ないなぁと、前を歩く鷹野さんの大きい背中を眺めながらそう思った。

 普通乗用車に乗り込むと、鷹野さんはスーツのポケットからインカムを取り出して左耳に掛ける。

「スワン、今から店に戻るから"先着"を頼む。千明、帰るぞ」
「はい」

 普通乗用車はお店に向けて、走り出した。
< 47 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop