だから君を失った。
「ねぇ、今日も本当に良いの?」


昨日のこと。

僕たちは彼女の実家の彼女の部屋で、二人きりで過ごしていた。



「あぁ、辞めておくよ。これ以上、君の貧血を酷くさせる訳には いかない」


「でも玲(レイ)、もう一週間も"我慢"してるよ?」


「でも、君のからだが―…」


「あたしは大丈夫だから、遠慮しないで。ほら!」


彼女は僕の横に座り、自身の腰まで伸びる漆黒の長い髪を、右手で かきあげた。


彼女の右肩と首筋が、顕(あらわ)になる。


すぐに目に入るのは―…



「"前回"のときの傷、まだ癒えてないじゃないか」


二つ並ぶ、丸い穴のような形の小さな"傷"。


「大丈夫だってば!」

「本当に…………良いのかい?」

「飢えに絶えて苦しむ あなたの顔を見るのが、もうイヤなの。お願い―…」


「お願い、は、僕のセリフだよ。けど、ありがとう」


と言うと僕は、彼女を抱き寄せた。


そして彼女がキュッと瞳を閉ざすなか、僕は彼女の肩に――…


『吸い付いた』。



部屋には、僕がゴクゴクと喉を鳴らす音だけが妖しく響く。


僕の喉を流れているのは、彼女の血。


彼女の右肩に刺さった僕の二つの牙(キバ)から、紅が ほとばしる。


そう 僕は―…、


ヴァンパイア なんだ。



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