ふりむいてよキャプテン
何て返したらいいのか分からないよ。


少し離れたところでやっている内野ノックのボール渡しをしているさほちゃんを見て、部活が始まる前の会話を思い出す。

まだ小野くんが好きなのに、嬉しかったなんて言う資格はないよね.......。それに散々にっしーを振り回しといて、いまさらそんなこと、言えない。

それなら、ちゃんとにっしーのこと見てくれるさほちゃんの方が......。


「忘れてくれていいけど......。
好きでいるのは自由だよね?」


私からボールを受けとると、バット片手に、にっしーはまっすぐ私を見る。


まっすぐで真剣な目に見つめられて、一瞬でまわりの音が遠ざかっていった。

まるで私たちのまわりだけ、時が止まったみたいに。


本当は、もし本心を言えるなら。
好きだって言われて、まだにっしーが私のことを好きでいてくれて、嬉しいんだ。

他の人が好きなくせに、本当に本当に最低だけど。


「......う、ん......。

......にっしー。外野のひとたちが、おねがいしますっていってるよ」


時が止まったみたいに感じられても、実際には止まるはずもなく、今は練習中。


少しの間止まっていたノックに、声が小さいからにっしーが打ってくれないのかと思ったのか、外野手が遠くの方で声を張り上げていた。


指摘すると、にっしーは視線を戻して、きれいにトスを上げ、ノックを再開した。

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