この恋、きみ色に染めたなら
『紗希』
先輩は迷いなく、私の名前を呼ぶ。
一斉に教室にいたクラスメートの視線が先輩から私に切り替わる。
『紗希、来いよ』
先輩はそれだけ言うと、教室の出入り口から離れ、先輩の顔が見えなくなった。
…言い逃げ、みたいなものですか…。
冷静に心の中で突っ込むも、私の足は動こうとしない。
だって、
私、先輩に後ろめたいことがある。
先輩から言われたこと、守れなかった。
先輩の過去も、先輩の想い人のことも、全部聞いてしまった。
それなのに、私は知らない振りをしてる、いやしなければならないー…
先輩の前で私は嘘を突き通すことができるんだろうか。
そんなことを思えば思うほど足が動かないー…