晴天のへきれき?
「な~んもない部屋ですけどね~」

キッチンに入ってから、ヒョイと顔を出して室井チーフを見る。

「えーと。車ですか? 電車ですか?」

「車だ」

「なら、時間は平気ですよね?」

「ああ」

「夜遅くまでやってる出前蕎麦を頼もうかと思うんですけど、いてくれます? 冷蔵庫空っぽで」

室井チーフは片手で顔を覆った。

「なら、頼めばいいじゃないか」

「二人前からじゃないと来てくれないんです。あ、ソファに座ってて下さい」

室井チーフがソファに座るのを確認してから、コーヒーの缶を見る。

あまりないな。


「室井チーフ。紅茶でもいいですか?」

「もう、なんでもいい」

じゃ、紅茶でOKっと。

ケトルにお湯を入れて、火を点ける。

簡単にティーパックにしちゃおう。

お茶を入れて室井チーフに出すと、彼はマガジンラックを眺めて、とても奇妙な顔をしていた。

「新説・能の世界?」

「私の趣味です。とやかく言わないで下さいね」

能の世界は素晴らしいんだからね!!

「あれだろう……。何度とも定めぬ旅を信濃路や、とか言うやつ」

「ぶっ…」

淡々と『望月』を謡う室井チーフに、思わずお茶を吹き出した。
< 24 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop