鬼伐桃史譚 英桃

 男たちは合図と共に四斗もある重い米俵を肩に乗せ、顔を真っ赤にして必死に堪える。

 そんな男たちの中に、ただひとりだけが平然と米俵を担ぐ者がいた。

 男の名は、中山 梧桐(なかやま ごどう)。和の国一番の力持ちと評判の強者であった。

 当然、彼に勝てる者はおらず、皆米俵を抱きながらも地に崩れ落ちる。



「おお~」
「さすがじゃ、さすがじゃ」
 周囲からは拍手喝采(はくしゅかっさい)が巻き起こっていた。



「さすがは梧桐殿ですな」
「いやいや、この世の中に梧桐殿以外の強者はまずおりますまいて」

 口々に賞賛され、機嫌をよくした梧桐は皆に会釈を軽く交わした。

「どうだ、梧桐殿ならお前達を鬼から救ってくれるだろう。のう、梅姚(ばいよう)、桜華(おうか)」

 目の前で繰り広げられるその光景を見ていた元近は誇らしげに強者梧桐を褒め称え、隣に座している愛娘ふたりに同意を促(うなが)した。


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