鬼伐桃史譚 英桃

 ――そう。元近が毎朝力試しをするこの慣わしの理由。それこそが、美しい愛娘ふたりにあった。

 それは数十年前のこと。大鬼はその上半身を長女の梅姚に――下半身を次女の桜華に封印させた。


『人間が生を受けるかぎり我が子らは再び我を呼び出すだろう。十六年の後その時こそがお前ら人間の最後よ』


 大鬼は封じられる直前に不気味な言葉を言い残した。鬼子らは、必ずこの娘ふたりの前に姿を現す。

 それを恐れた元近は日々こうやって力比べをさせ、強者に鬼退治をしてもらおうと考えたのだった。


 我ながらよい案だと、元近は自慢の顎髭に指を滑(すべ)らせながら、ひとり頷(うなず)く。



 誇らしげな父親のその言葉を合図に、見目麗しいふたりの姫は梧桐を見、梧桐は姫ふたりと目が合うと会釈をした。

 桜華もなんとかして鬼の手から姉と自分を救おうとしてくれている父の思いに応え、視線が交わった梧桐に会釈し、可憐に微笑む。


< 19 / 94 >

この作品をシェア

pagetop