鬼伐桃史譚 英桃

 やっと辿り着いたと思った裏門へと繋がる座敷には、誰(たれ)ぞやが黙然と立っていた。年の頃なら十七ほど。ひとりの男(お)の子だ。青白い肌に、腰まである白髪が炎の赤に染まり、風になびいている。彼の頭部には常人にはない、漆黒の牛のような角が生えていた。

 彼の左手にあるのは鋭い槍。

 するすると、その切っ先からは赤い雫が伝う。そして男の子の足下には幾人もの人が倒れており、畳が赤く染まっていた。


 その姿を目にした家人(かじん)たちは、わあっと短い悲鳴を上げた。しかしその後、もう誰も何も発することはなかった。



「お前たち。他の奴らはどうしたってかまいやしないが、大事な御方(おんかた)の体が宿っている姫二人は殺すんじゃないよ」

 隣接している座敷にいた女はやはり鬼で、鋭い角が頭に生えている。女の鬼は真紅の唇をひん曲げ、にたりと笑いながらそう言った。

 その足下にはすでに数え切れないほどの骸(むくろ)が転がっている。


< 29 / 94 >

この作品をシェア

pagetop