鬼伐桃史譚 英桃

「鬼よ! 一の姫、梅姚はここに!!」

「母上!! 一姫いたぜ!!」

 両手を広げ、気高く言い放つ梅姚の後ろ姿を見つけた子鬼は軽々とした身のこなしで梅姚の前に現れた。


「おや、いたのは一の姫だけかい……」

 子鬼の声に母鬼も姿を見せる。


「母上、城主はいなかったよ。だけどここの家人どもは姫以外、ぜんぶ殺したぜ」


 もうひとつの子鬼が、面白可笑しそうにけたけたと笑い声を上げた。


「そうかい。城主も見当たらないところを見ると、二の姫はこの屋敷には居なかったのかもしれないね。まあ良い。どのみち人間は皆殺しにするんだ。いずれは二の姫も見つかるだろう」


 母鬼はそう言い残し、轟々(ごうごう)と燃え盛る炎の中、大鬼の上半身をその身に宿らせた一の姫、梅姚とともに鬼たちは蘇芳城から姿を消した。


 ただひとり、意識を失った桜華姫を残して……。


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