鬼伐桃史譚 英桃
桜華が問うたその矢先だ。腹に激痛が走った。
梅姚が桜華に拳を当てたのだ。
ふいの攻撃に桜華は簀(す)の子から足を踏み外し、庭に転がり落ちてしまった。そのまま土の地へと崩れ落ちる。
桜華は、このまま意識を手放してはいけない。姉上を助けなければ。自分と一緒に逃げるのだと言い聞かせ、必死に意識を呼び戻そうとするが、それも虚しく、眼はゆっくりと閉じていく……。
「あなたと私。ふたり揃(そろ)う事がなければ、鬼は復活しません。父上と母上は時期に帝への拝謁(えっけん)を終えて戻って参ります。せめて。せめてあなただけでも……生きて。桜華」
薄れ行く意識の中、梅姚が自分に向けて思いを託(たく)す。
「鬼よ! 一の姫、梅姚はここにおりまする!」
梅姚は燃え盛る炎の中、両手を広げ、人びとの悲鳴にも勝る凜(りん)とした声で高らかに宣言した。