鬼伐桃史譚 英桃

 よもや自分たちが留主をしている時に鬼が襲撃してくるとは思わず、絶望が元近とかぐやを襲う。

 その時だ。

 焼け落ちた木材の山の中。そこで何かが動く気配がした。

 かぐやは微かな物音を頼りに、瓦礫(がれき)と化した視界に目を凝らす。




「――――」

 果たして煤だらけの黒々とした木材の中で、人の腕と思しきものがわずかに動いて見えたのは気のせいだろうか。

 かぐやは目を細め、恐る恐るその場所に近づく。

 すると薄桜の布が見えた。煤けてはいるが、この布の色には見覚えがある。二の姫桜華が特に気に入っている着物の色だ。



 かぐやは取り憑かれたように材木を掻き分け、着物が汚れるのも気にすることなく、ひたすら手を動かした。

 すると少しずつ見えてくるのは、多少は汚れてはいるものの、薄桜色をした着物の全貌と、淡褐色の髪に飾られた簪(かんざし)。年の頃なら十六ほどの美姫。桜華の姿だった。


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