鬼伐桃史譚 英桃

 元近は何事かと顔を覗かせると、大きく佇(たたず)む城が見える筈(はず)であったそこには何もなかった。

 あったのは、なんとか骨組みを残したままの状態で焼け落ちた城の哀れな姿のみだ。

 崩れ落ちた瓦礫(がれき)の山々からは、鼻をつく、焦げた匂いが充満している。


「おう、これはいったいどういうことぞ」

 元近とかぐやは息を飲み、言葉を失った。


「鬼が、来たのか」


 元近は、ぼそりと言葉を吐き、力なく牛車から降りると、以前は表門があったであろうその場所まで進む。

 そうしてがっくりと膝を折った。



「姚……桜華……梅姚!! 桜華!!」


 悲壮感漂うかぐやのか細い声が静寂を破る。


「梅姚!! 桜華!!」

 叫べど、叫べど、かぐやが待ち望んでいる姫たちの姿は見えない。

 やがてかぐやも目の前の惨劇(さんげき)にすっかり打ちのめされて力尽き、途方に暮れた。


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