鬼伐桃史譚 英桃
第三章~逢遇

第一話・旅はみちづれ世は情け




 英桃(えいとう)はようやく村の外れに続く森の中心部まで辿り着いた。

 母には父の後を継ぐと立派に宣言したものの、鬼討伐よりも以前の問題だ。いくら訓練は受けているとはいえ、自分はまだ戦さえも経験していない未熟者なのだ。訓練と実践ではおそらく違うものだろう。今の状況でどうやって鬼と戦えというのか。英桃の足取りはすこぶる重い。


 重たい足取りでさらに進んで行くと、やがて涸(か)れ井戸の前までやって来た。涸れ井戸は忍国の終わりを示す。嘗(かつ)ては広大だった忍の里は、いつの間にやら人口が減り、小さな村になってしまった。そこは今や村の出口を示していた。

 ここから一歩でも踏み出せば、そこはもう自分の見知った森の中ではない、未知の世界が広がっている土地だ。


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