鬼伐桃史譚 英桃

「南天、茜。どうしてここに?」

 英桃が訊(たず)ねると、南天が口を開いた。


「ごめん。さっき母屋で話していた会話を聞いていた。――行くんだろう? 鬼退治。僕(ぼく)たちに何も言わずに行くなんて水くさいじゃないか」

 やはり母との会話を盗み聞いていたらしい。南天は申し訳なさそうに言った後、しかしすぐに眉尻を上げ、表情を変えた。彼の目に決意が宿っている。


「行くなら行くって一声かけてくれよ。昨日、丘の上で言っただろう? ゆすらうめが鬼討伐に向かう時があったら、俺も行くって」

 続けて茜も言う。


 たしかに。茜は自分も鬼退治に行くとそう言った。


 あの時はまさか本当に自分が鬼退治などに向かうとは思ってもいなかった。茜は言葉はただの戯(ざ)れ言だと笑って一蹴(いっしゅう)したのではあるが、実際に直面すれば心細い。二人が一緒に旅立ってくれればどんなに心は晴れるだろう。


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