大海原を抱きしめて



私がここに来ることになったのは、やむをえないと言ってしまえばそれに尽きる理由でだった。

今日ここに勤務していたのは桜庭さん。

加藤さんと同い年で、桜庭さんにも小さい子供がいる。

まだ幼稚園にも通っていない2歳の男の子。

その子が発熱の症状があると、幼稚園から連絡をもらったらしい。

春とはいえ、インフルエンザの可能性を否定できないからと、その子を病院に連れて行くために早退した桜庭さんの代わりに、出勤したばかりの私が選ばれたというわけ。

今日はエイプリルフール。でも、嘘じゃない。

私はしっかりと、郷土館の敷居をまたいで、納得できない表情を浮かべながらパソコンと向き合っている。

なんとも言えない疲れはきっと、駐車場もない郷土館に片道5分かけて歩いてきた、それだけではないと思う。

止まないため息の理由は、一人ぼっちでここにいたらどこにもぶつけようがない。

わかってるから、首を横にぶんぶん振って、いろんな感情を振り払った。
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