大海原を抱きしめて


「私、笠岡さんみたいな人になりたい」

「やめとけ、この性格でいいことなんてなかったぞ、今まで」

「でも、ちょっと尊敬しました」

「んなこと言われたの初めてだよ」


どくんどくんと高鳴る心臓は、自分の殻を少し破った証拠かな。

伝えるって、素敵なことなんだ。

心地よい胸騒ぎが、潮風に吹かれて春を駆け抜けていく。


「でも、無理すんなよ。人に優しくする前に、自分に優しくなれ。そうすれば必然的に、優しい人間になれるから」


お前は優しすぎんだよ、無駄に。

そう言い放って鼻先で笑った笠岡さんの笑顔は、夕焼け空の下で優しく輝いていた。


「不本意だけど、なんかありがとうございました」

「ほんと可愛くねーな、お前は」


笑い合うと、優しい気持ちになれた気がして、心があったかい。

根拠はないけれど、なんだか私、少し変われそうな気がする。

自分の心を伝えることから始めようと思った。
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