大海原を抱きしめて



洗顔しようと洗面台の前に立つと、鏡に映った髪には寝癖がついている。

なかなか直らない。だからくせっ毛は困る。

胸の辺りでは、傷んだ茶髪の毛先が悲鳴を上げている。ような気がするし。

くせっ毛故に、ヘアアイロンを酷使した代償。

でも、さほど気にしていない証拠に、腹の虫が鳴いた。

23歳。こんな考えって、女としてどうなの。

答えなんてわかってるけど、面倒くささについて回る"楽さ"を知ってしまった以上、簡単に自己改革なんてできない。

髪をまとめて冷たい水で顔を洗うと、心臓は驚いたけど目は覚めた。

自分で作り出した不快感を払拭するように、タオルで顔を拭く毎日のひととき。

ため息と一緒に快晴の空を窓越しに見つめると、春の匂いを感じた気がした。

今にも風が吹いてきて、髪をなでられそうな気分。

ようやく訪れた春に満ちている外の世界。

春は好きだ。春の匂いが、好きだ。
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