大海原を抱きしめて
7.長袖おじさん
7.長袖おじさん
翌日、谷上さんは出勤した私を見るなり、奥の小部屋へと引きずりこんだ。
笠岡さんはまだ来ていない。
どうやら、心配しているらしい。
二人っきりで何もなかった?って。
それよりも心配することありますよね、って思ったけど、私が予想していた質問を聞けたのは、最後の最後だった。
「ショックじゃなかった?」
その問いに、私はただ微笑んだ。
衝撃は大きかった。
でも、笠岡さんに対する対応とか、考えを変える必要はないって判断したから。
そういえば、どうして私に過去を打ち明けたのか、聞いてない。
率直に訊ねると、谷上さんは得意げに口を開く。
「俺が勧めたんだ。香乃ちゃんに、心開いてるみたいだったから」
「そうですかね?」
「香乃ちゃんには、どこか共通点を感じてるんだよ、笠岡くんは。だからどこかで知られてしまう前に、自分の口で言っておきたかったみたい」