大海原を抱きしめて


東京に行ってくると告げた時、お父さんとお母さんはしつこく理由を聞いてきた。

職場のみんなもそう。

そして、まるで一生の別れをするかのような心配をされた。

実際、遊びに行くと言いながら、本当の目的は東京での暮らしの下見。

嘘をつきたかったわけじゃない。

まだ覚悟ができていないからそんなこと言えなかっただけ。

電車に乗り換えて、すべて茉莉に頼ってたどり着いたのは、ワンルームマンション。

一人ですむにはちょうどいい広さ。

もしも私がこういう部屋に住んだら。

無意識に、考えていた。

茉莉らしく、キャラクターのぬいぐるみや可愛らしい小物で飾られた、薄いピンクで統一された部屋。

ソファーに座ってて、と私に言い残して、茉莉は冷蔵庫を開けている。


「お腹すいたでしょ、ちょっと待っててね」


時刻は夜7時過ぎ。

特にお腹もすいてない。ただ、とにかく肩が凝ってる。


「最近…食欲なくてさ」


打ち明けるつもりはなかったのに口走ってしまうのは、きっと茉莉を信用しているから。

相談したくなってしまうのは、茉莉が大事な友達だから。

楽しい予定ばかり立ててきたし、笑顔でいようって思っていたけど。
< 329 / 435 >

この作品をシェア

pagetop