大海原を抱きしめて
東京に行ってくると告げた時、お父さんとお母さんはしつこく理由を聞いてきた。
職場のみんなもそう。
そして、まるで一生の別れをするかのような心配をされた。
実際、遊びに行くと言いながら、本当の目的は東京での暮らしの下見。
嘘をつきたかったわけじゃない。
まだ覚悟ができていないからそんなこと言えなかっただけ。
電車に乗り換えて、すべて茉莉に頼ってたどり着いたのは、ワンルームマンション。
一人ですむにはちょうどいい広さ。
もしも私がこういう部屋に住んだら。
無意識に、考えていた。
茉莉らしく、キャラクターのぬいぐるみや可愛らしい小物で飾られた、薄いピンクで統一された部屋。
ソファーに座ってて、と私に言い残して、茉莉は冷蔵庫を開けている。
「お腹すいたでしょ、ちょっと待っててね」
時刻は夜7時過ぎ。
特にお腹もすいてない。ただ、とにかく肩が凝ってる。
「最近…食欲なくてさ」
打ち明けるつもりはなかったのに口走ってしまうのは、きっと茉莉を信用しているから。
相談したくなってしまうのは、茉莉が大事な友達だから。
楽しい予定ばかり立ててきたし、笑顔でいようって思っていたけど。