大海原を抱きしめて
10.大都会の真ん中で


10.大都会の真ん中で


私は、茉莉に頼み事をひとつした。

前々から願望はあったもの、一人では踏み切れなくて。

覚悟だけは、できている。

前もって調べられる限りのことは調べて、何度も茉莉と連絡を取り合った。

万全を期しての一人旅。

なんとかたどり着くことができた東京駅は、暦の上では秋なのに真夏の温度。

私が知ってる秋の気温じゃない。

一気に夏の暑さを思い出して、ずっと張り詰めている緊張と相俟って、くらりとした。

ホームで待ってて、という私のわがままを快く聞いてくれた茉莉は、私の姿を見るなり満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきてくれた。

1年以上ぶりの再会。

最後に見たときよりもすらりと痩せた茉莉に、木場ながらのワンピースがよく似合ってる。

ダークブラウンの巻き髪が、茉莉が動く度に揺れて宙を舞う。

すっかり、都会の女の子。

知らない土地。でも、茉莉がいるだけですごい安心を感じる。

一気に無駄な力が抜けて、体が重たくなった。

今日はゆっくり家ですごそう、という話をして歩き出す茉莉の背中を必死に追う。

つい上を見上げてみたり、キョロキョロと周りの様子を気にしてしまう私にたいして、迷いもなく前に進んでいく茉莉が、少し遠い人に見える。

そして人の多さにも圧倒されてしまう。

人混みは、あまり得意じゃない。
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