大海原を抱きしめて
「おかえり、香乃。茉莉ちゃん、元気だった?」
「ねーちゃん、お土産は?」
同時に話しかけられても、答えられない。
「茉莉は元気だったよ。これ、お土産。じいちゃんとばあちゃんにお供えしてから食べてよ?」
外の洗い場で魚をさばいていたお父さんは、おかえりのかわりに"東京行きたくなったか"と訊ねたけれど。
もうちょっと考えてみる、と答えたら、満足げにそっと笑った。
それが、私が旅を終えて出した答え。
迎えてくれる人がいる幸せは、一生続くものじゃない。
この街だって、時代と共に変わっていく。
人も、自然も。
でも、今はその変化を楽しんでいたいと思う。
みんなのように上京するよりも、住んでいたいと思える、この村で。
いろんなことに気づかされた、収穫の多い旅だった。