大海原を抱きしめて


「おかえり、香乃。茉莉ちゃん、元気だった?」

「ねーちゃん、お土産は?」


同時に話しかけられても、答えられない。


「茉莉は元気だったよ。これ、お土産。じいちゃんとばあちゃんにお供えしてから食べてよ?」


外の洗い場で魚をさばいていたお父さんは、おかえりのかわりに"東京行きたくなったか"と訊ねたけれど。

もうちょっと考えてみる、と答えたら、満足げにそっと笑った。

それが、私が旅を終えて出した答え。

迎えてくれる人がいる幸せは、一生続くものじゃない。

この街だって、時代と共に変わっていく。

人も、自然も。

でも、今はその変化を楽しんでいたいと思う。

みんなのように上京するよりも、住んでいたいと思える、この村で。

いろんなことに気づかされた、収穫の多い旅だった。
< 350 / 435 >

この作品をシェア

pagetop