大海原を抱きしめて


***


東京土産と思出話を抱えて出勤すると、おかえり、の言葉で迎えられた。

香乃ちゃんから都会の匂いがする!なんて加藤さんの冗談に笑いが起きて、アットホームな空気。

帰ってきてよかった、と思った。


「香乃ちゃん、スッキリした顔してる。ちょっとは元気になったみたいで安心した」


谷上さんにそう言われて、少し照れる。

食欲のなさも、気がついたら普通になっていたし。

私って、我ながら単純?


「残念ながら、笠岡くんは今日はお休みだけどね」

「残念ながらって、どういうことですかー」

「会ったんでしょ?向こうで」

「食事だけですよ」

「本当に?東京でなにかあったんじゃない?」


勝手に盛り上がっているのは、谷上さんと加藤さん。


「笠岡くんが香乃ちゃんを簡単に返すと思う?」

「怪しいですよねー、香乃ちゃんは見知らぬ土地で逃げ場なかったわけだしー」


必死に否定したらいけないって思って、軽く話に乗ってみたりして。

なんか、楽しい。


「笠岡さん、香乃ちゃんのこと心配して、連れて帰ってきちゃうんじゃないってみんなで心配してたの」


確かに、心配はしてたけど。

笠岡さんは、どうだったんだろう。

逃げて捨てた東京という街を数年ぶりに瞳に映して。

辛くなかっただろうか。

考えれば考えるほど、気がかりだった。
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