大海原を抱きしめて


買い物でも行こうかと話しながら朝ごはんを食べていると、私のケータイが震えだした。

名前を確認すると、仕事が休みの日はできれば見たくない文字。

谷上さんが一体なんの用事だろう。


「香乃ちゃん?」

「おはようございまーす」


やる気のない挨拶で、ちょっとだけ無駄な抵抗。

一方の谷上さんは、どこまでも明るい口調で私の鼓膜を刺激する。

テーブルの向かいで可南子が苦笑いをしてる理由は、私の歪んだ表情にある。


「今どこにいる?」

「…どこでしょう」

「香乃ちゃんにお願いがあるんだけど」


多分この人にとって、今私がどこにいるかなんて関係ない。


「引き受けるのは、内容次第ですよ」

「わかった。じゃあとりあえず事務所に来てくれないかな?」


休みの日に呼び出しなんて、滅多にない。

なにか仕事でミスをしただろうか。

その心配が、真っ先にわいてきた。
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