大海原を抱きしめて
12.運命の甘い罠


12.運命の甘い罠


笠岡さんの体調の心配と、はっきりしないもどかしい関係がずっと頭の中で私の思考を妨げて、とにかくお酒が進んでしまった昨夜。

珍しく派手に酔っぱらって、軽い頭痛とともに可南子の部屋で朝を迎えた。

記憶をたどれば、笠岡さんへの思いをひたすらに語っていた気がする。

好きだとか。

どこが素敵だとか、たまに優しくてとか。

別に、まだ思いが通じ合ったわけでもないのに。

触れ合った体温が、私を変な錯覚に陥らせているんだと思う。

お酒の力も、私が今まで押さえてきた気持ちを解放させてくれたらしい。

可南子にとっては、よく知らないおじさんに惚れた友達が、目の前で酔っぱらってひたすら好きだと語り続けるという大迷惑を被ったはず。

すでに布団から出て朝ご飯を作ってくれている可南子の背中に朝の挨拶と謝罪をすると、けらけらと笑う。


「香乃のいいところはさ、どんだけ酔っぱらっても記憶がちゃんとあるってことだよね。もしなにも覚えてなかったら、私多分説教してると思うわ」

「すみません、本当に」

「でも、安心した。やっと次の恋に踏み出せたみたいで」


振り返った可南子は、やっぱりやさしい笑顔。

いい友人を持てて、私は幸せです。
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