大海原を抱きしめて
もう一人の当事者が不在だったから、私と笠岡さんの関係について言及されるようなことはなかったけど。
事務所の駐車場に車を停めると、すでに黒いスカイラインが停まっている。
昨日、私が笠岡さん家から帰るとき、私の車に乗り込んだ笠岡さんを診療所に降ろした夕方。
運転席と助手席。
その距離に胸を高鳴らせていたのは私だけだった。
笠岡さんはあっさりと車から降りて、サンキュ、と言ったきり私を一瞥もせずに自分の車に乗り込んだ。
そういうスタンスでお付き合いするのが笠岡さんだっていうなら、私はその態度に愛を見いだせるように、"頑張って"いかなければならないんだろうか。
そう私が納得しようとすると、心には気持ちよくないモヤモヤがわいてくるばかり。
だからここ数日、ご飯があんまり食べれない。
お母さんには隠しきれずに打ち明けたけど、そういうのを恋煩いっていうのよ、って言ったっきり、ひたすら喜んでいる。
私の顔を見るたびににやにやして。
私は、そんな余裕なんてないっていうのに。