大海原を抱きしめて


玄関を出て見上げた空は、雨の予感を漂わせている。

灰色がかっていて、西の空はさらに暗い。

どんよりした天気に飲まれそうになって、気持ちを切り替えようとカバンからケータイを取り出した。

電話をかける先は、村役場。


「産業課の上野さんいらっしゃいますか」


上野さんとは、谷上さんの同級生でもあり、私のクラスメイトの母親でもある。

小さな村ゆえに、縦の繋がりも横の繋がりも広い。

人間関係が密であることはよくも悪くもあるけれど、私は助けられることの方が多い気がする。今のところは。

苦手な電話も、ほぼ知り合いが出てくれるから安心。


「お電話代わりました」

「おはようございます、瀬波です」


事務所の入り口にある連絡用のホワイトボードに、今日の日付で郷土館に"団体客の予約あり"の文字を見つけたが、時刻も何も記されていなかった。

担当は役場、の文字を傍らに見つけて、電話をしたのだ。
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