大海原を抱きしめて
助手席のドアを勢いよく開けたのは、故意。
懐かしい芳香剤の匂いが、あの雨の日の記憶を思い出させた。
そんな私の心なんて知らないであろう笠岡さんは、私を足の先から舐めるように見ている。
「休みなんだから、ミニスカートでもはいておしゃれしてこいよ」
なんだその格好、小学生か。
と感想を述べられても、私の眉間に刻まれているシワが深くなるばかり。
「スカートはあいにく持ってませんけど」
「へー、まあ、そのちび体型でスカートなんてはいても、幼稚園のお遊戯会に間違われたら困るもんな」
あからさまにため息をはいた。
朝からこの絡みは正直面倒すぎる。
まだ本調子に働いていない頭は、返す言葉も見繕ってくれない。