掌ほどの想い出
「ママー、みて! ふじさぁん」
「うわぁ、ホントだ。大きいねぇ」
 車の後部座席で、娘と私は大はしゃぎしていた。
 大型連休をあえて避け、通常の週末を使っての旅行は時間的にはタイトだが、それでも家族みんなが笑顔でいるのだから、これはこれで良かったと思う。
「パパは、びゅーんってこわいの、のらないの?」
 娘の言葉に、バックミラーに映る眼鏡越しの奥二重が少し困ったように目じりを下げる。
「うーん、絶叫系とかは、ちょっとねぇ……」
「ふぅーん。しゅんくんは、パパといっしょにびゅーんってやつにのったんだってー。あいりもパパといっしょにのりたいー」
 娘の言葉に夫がなんとも言えない動揺の声を上げた。私は、そんな二人のやりとりを笑いながら見ている。
 車窓から望む富士山は晴天に映える蒼を裾野めいっぱいに広げていて、その存在感に目を奪われる。
 でも。
「なんだか、ありがちな絵葉書みたい」
「……なにが?」
 私のつぶやきに、娘が素早く反応した。
「うーん、……何だろね」
 適当に誤魔化す私に、娘がしつこく食い下がってくる。それを笑顔であしらいながら私は、ある人を思い出していた。
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