掌ほどの想い出
 娘の声に急かされるように車を降りると、目に染み入るような新緑と共に、初夏とは少し言い難い冷ややかな突風が、私にきつく当たってきた。まるで、私の逡巡を苛むように。

――わかってます。私には、今のこの場所が一番です。

「うっわぁ、やっぱきれいだなぁ」
「うんっ! すごいねー、ママ?」
 夫と娘に向かって、にこやかに頷きつつも。
 でも私には。
 この先、どんなに見事な情景を見る事があっても、きっと、あの時の、あの一瞬の掌ほどの小さな薄青に、勝る物はないのかな、と思いつつ、目の前の風景をぼんやりと見つめていた。
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