天才少女は嘘をつく。





特別クラスの教室は普通の教室とは作りが違う。
1人用の高級ソファーと透明色のテーブルが1人ずつ。黒板の代わりに電子黒板、教科書の代わりにiPad。

初めての時はかなり驚いたけど、なんて言うか……もう慣れた。

逆に転校生は全く驚いておらず、さも当然のようにソファーに座っていた。
電子黒板の前にTシャツにジーパンのラフな理事長が出てくる。理事長の割には若く、まだ40代だから出来る格好だ。
彼は電子黒板の脇に貼り紙を貼り付けた。全員の視線がそこに向く。

フランス語

これは今週は授業時にフランス語を話すということだ。ちなみに春休みの課外学習の時はずっと中国語だった。

『おはようございます、先生』

転校生以外の全員がフランス語で挨拶をした。

『おはようございます、皆さん。樋本さん、前に出てきてください』

理事長は流暢なフランス語で言った。それにも関わらず転校生は優雅に前に現れると綺麗な発音で自己紹介を繰り広げる。

『初めまして、Mari Imotoです。4ヶ国語しか話せませんが、皆さんより劣っているとは思わないので。よろしく』

彼女は微笑みながら自信満々に告げた。クラスメイトの反応はまあまあだ。

ほとんど理解できてない由衣は顔をしかめていたけど、それは分からなかっただけ。一般人並みに理解した真子とわたしは苦笑い。完璧に理解した流奈はどうでも良さげに本を読んでいた。

今週がフランス語ということもあってかフランス語の本だ。わたしにも分かる簡単な題名だけどそれなりの分厚さがある。
タイトルは「赤と黒」

聞いたことがあるような無いような。難しそうな話だ。

まあ、流奈の本は置いておいて……まず自分がこのクラスの人より劣ってないと断言する彼女に対して一言。

自意識過剰。

そう声に出して言いたくもなったが、認めざるを得ない。このクラスで彼女レベルの発音のフランス語が話せるのは流奈ぐらいだ。
Rの発音がちゃんとしていたり、苗字をヒモトではなくイモトと発音する辺り、彼女はフランス語に長けている。いや、別にヒモトならヒモトと発音して良いとは思うけれども。

『では樋本さん、今のをシングリッシュで』

理事長の無茶ぶりに思わずわたしは抗議の声を上げそうになった。しかし何てことない。彼女はシンガポールに住んでいた帰国子女だ。中国語のような英語で同じ自己紹介を繰り返した。

『良いでしょう。このクラスでは同じ言語でも色々な訛りを使えるように練習します。言語は誰にでも習得出来る』

「そう、由衣でもね」

わたしはおどけて隣の席の由衣に囁いた。由衣はむすっとした顔で「うるさい」と文句を言う。

実際由衣は学習面で底辺を這っている生徒だが、理事長のスパルタ教育のおかげで語学面では話せる程度には保てている。(フランス語での嫌味が通じないだけで)

『転校生だからといって待遇を変えるつもりは一切ありませんから、そのつもりで』

『はい、先生』

< 5 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop