天才少女は嘘をつく。
『では皆さん。私は今から仕事があるので一時解散です。放課後にまた会いましょう』

理事長はにこやかに挨拶すると教室から出て行ってしまった。それに合わせて真子は転校生のテーブルの前に立つ。

「転校生とかびっくりしたよ〜。麻里ちゃんって呼んでいいかな?」

真子がニコニコと笑みを振りまきながら首を傾げた。

「ええ、よろしく。あなたは?」

「そっか、みんなまだ自己紹介していなかったよね。わたしは東真子!麻里ちゃんと同じ普通クラス生代表だよ。で、こっちの3人が______」

「えっと、芸能クラス代表の倉田美亜です。よろしくね」

わたしはソファーを立ち上がり真子の紹介に応じて自己紹介する。向こうも軽く頭を下げてくれた。

「……豊島由衣だ。体育クラス代表」

わたしの次に由衣が簡潔に言った。さっきまで転校生と仲良くなるつもりでいる様子だったのに、先程の完璧なフランス語挨拶に嫌悪感を抱いたようだ。
由衣は流奈みたいに頭が良い人が苦手である。

「それで、この子が……」

真子が説明しようとすると、流奈は読んでいた本をばたりと閉じて席を立った。わたしたちはシーンと静まり返って流奈の次の行動を待った。
彼女はわたしたちのリーダーだ。彼女の行動によって転校生の接し方が180度変わる。

「わたしの名前は言わなくても分かるかな。樋本麻里さん______それとも、''ウィンターチェリー''と呼ばれる方が好き?」

流奈の質問に麻里は沈黙という手段を取った。わたしたちはすぐに流奈の言いたいことを察した。

「ウィンターチェリー……?それってまさか」

「「万能のウィンターチェリー!」」

わたしと真子が同時に叫んだ。

何てことだ。まさか樋本麻里が授業でやった有名な人物だなんて!

「誰だ、それ」

「由衣ってば……授業でやったでしょ?ウィンターチェリー______数年前から活躍している失敗知らずの潜入スパイ。今のところ分かる情報は百合の香りの香水をつけていることと、何でもこなす万能の天才であるということのみ……」

「ふふっ、万能の天才、ねぇ」

麻里は口に手を当てて笑みを漏らした。人差し指を前に突き出して由衣に向ける。

「豊島由衣。戦闘の天才。別名キャンディタフト」

「東真子。普通の天才。別名アキレア」

「倉田美亜。魅惑の天才。別名ネモフィラ」

「……そして、完璧の天才。桜川流奈。別名スノードロップ」

「みんな知ってるわ。これでも現役のスパイなのよ?」

一人一人の通り名を言って回り、彼女は不敵に笑った。教室のドアを静かに開ける。

「ルナちゃん、やっぱり私のこと忘れたね」

流奈は無表情で彼女を見返した。

「…………忘れたんじゃない。覚えることを許されなかったんだよ」

「?」

わたしはただ首を傾げた。何をすべきか分からず、流奈の言葉の意味が全く理解出来なかった。

「知り合いだったのかよ」

「初対面のただの同業者」

由衣がボソリと呟き、流奈が何てことない調子で返した。

彼女は動揺と緊迫というものを持ち合わせていない。転校生が来ようが来るまいが、例え今テレビ放送で明日世界が破滅する宣言しても、最後までその余裕があるクールな表情を崩さなそうだ。

「嫌いだな、私は。ああいう女には虫酸が走る」

と由衣が腹立ち混じりに言った。

ああ、わたしも嫌いだなぁって。話し方も、万能ってところも、流奈に対等に接しようとするところも全部。

何であんなに彼女は似ているのか。

特徴もそっくりで、まるで××××だ。

彼女は似ている。






わたしの姉に。
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