ラグタイム
彼の背中が見えなくなったのを確認した後、俺は息を吐いた。

「あいつ、ブラコンみたいなところがあるんだな」

朝貴が駆け落ちしたと知った時の不安そうな顔を思い出したら、俺の胸が締めつけられた。

ついには、不倫をしていたんじゃないかって言い出したし。

「そんな訳ないよな」

むしろ、そう言うのを嫌っていそうだし。

朝貴のヤツ、まじめなうえに妙に潔癖なところがあったからなあ。

反対に彼の弟である夕貴は活発で、サバサバとした性格だ。

体育会系だからって言うのもあるかも知れない。

「さて、片づけ片づけ」

まな板のうえに置いてあった包丁を持つと、ケガをした人差し指を口に含んだ夕貴の顔が浮かんだ。

「アホか、俺は」

何でヤローに欲情を感じなきゃいけないんだか。

俺は毒づくと、洗剤で包丁を洗った。
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